これが本当のラストチャンス! ——世界に誇る山梨の研磨
今から30〜40年前、昭和の時代、山梨(甲府を中心とした地域)の研磨は、全盛期であった。西独(当時)のオーベルシュタインと並んで世界の二大研磨宝飾工業の産地と言われていた。
そして当時、水晶を研磨する人は、多くいて、切り子屋さんと呼ばれていた。そうしたなか、私(秋山)は、いろいろな切り子職人を尋ね歩いたが、正多面体を正確にカットできる腕のいい職人、3人に出会いました。
K氏、A氏、Y氏です。
通常のペンダントは、平面を基準に考えるため、カットは比較的簡単でした。
しかし、正多面体などは、空間を考えて作業に当たるため、簡単ではありません。それは、立体のいちばん基本的な形、球を意識しなければなりません。
たとえば、正二十面体は、球に内接し、かつ外接もする。
さらに、二十面体の各頂点と二十面体の中心を結ぶ角度が、すべて同じである。このように、中心から各頂点を結ぶ角度が同じである立体は、きわめて希な立体なのです。
そして、多面体の設計は、私が紙と鉛筆で計算したものです。この数値を初めて公開します。
多面体の傾斜角
$$正四面体 \frac{1}{2}\cos^{-1}\frac{1}{3}=35.264^\circ$$
$$正八面体 \cos^{-1}\frac{1}{\sqrt{3}}=54.735^\circ$$
$$正十二面体 \tan^{-1}\frac{1+\sqrt{5}}{2}=58.282^\circ$$
$$正二十面体 \tan^{-1}\frac{3-\sqrt{5}}{2}=69.094^\circ$$
内接球、外接球も計算した。
内接球 外接球
$$正十二面体 \frac{1}{4}\sqrt\frac{50+22\sqrt{5}}{5} \frac{\sqrt{3}+\sqrt{15}}{4}$$
$$正二十面体 \frac{3\sqrt{3}+\sqrt{15}}{12} \frac{1}{4}\sqrt{10+2\sqrt{5}}$$
以上は、30年前に計算した数値です。
30年以上前に、A氏に研磨を依頼しました。設計図を示して、しばらくはA氏に作ってもらっていたのです。その後、Y氏が水晶の大きな塊を持っていることが分かり、Y氏にも水晶の多面体製作をお願いするようになりました。
20年前に、K氏が他界、さらに数年後A氏も他界しました。
さらに、10〜15年前、Y氏が病気になり、多面体の研磨を頼める人がいなくなりました。仕方なく、別の職人様に菱形三十面体をお願いしたことがあります。菱形三十面体の対角線比は、黄金比です。一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月経ってもできてこない、そして、六ヶ月後に、その職人から、できないという返事でした。
それから数年の後、Y氏が病気より回復して、正確な菱形三十面体ができあがった時はホッとしたのを覚えています。
現在、Y氏は、80歳代半ば、これまで同様の水晶の商品が作れるかは、不透明になってきました。
そんななか、少し無理を言って、最近、以下に紹介する、九つの多面体を作ってもらいました。
1〜9は、天然無キズの白水晶です。無キズのかたまりの水晶はなくなりつつあります。あったとしても、かつての4〜5倍の仕入れ値となっています。
以下の水晶は、かつて購入していた仕入れ値を基準にした価格で提供するものです。
- 立方八面体 水平高30ー対角線40ミリ 定価70,000円
- 正二十面体 水平高17ー対角線21ミリ 定価30,000円
- 二十、十二面体 水平高22ー対角線25ミリ 定価100,000円
- 菱形三十面体 水平高17ー対角線19ミリ 定価45,000円
- 菱形三十面体 水平高21ー対角線24ミリ 定価65,000円
- 正八面体 水平高16ー対角線27ミリ 定価40,000円
- 正六面体(立方体) 水平高15ー対角線26ミリ 定価16,500円
- 正十二面体 水平高17ー対角線21ミリ 定価30,000円
- 正四面体 一辺19ミリ 定価17,500円
青水晶(再結晶、透明で美しい)
- 正六面体(立方体) 水平高18ー対角線20ミリ 定価40,000円
- 立方八面体 水平高19ー対角線27ミリ 定価50,000円
アメジスト 宝石用の石 無キズの天然透明。この色と透明度は、国内ではほぼない。
- 斜方立方八面体 水平高18ー対角線21ミリ 定価795,000円
その他、正多面体、5ヶ、新たに作ってもらっています。
ちなみに、切頭二十面体は、ロバート・カール(ライス大学、米)、ハロルド・クロトー(サセックス大学、英)、リチャード・スモーリー(ライス大学、米)の3人が、1996年(平成8)、ノーベル化学賞を受賞した時の形です。
また、菱形三十面体は、2011年(平成23)、ダン・シュヒトマン氏(イスラエル工学大学)がノーベル化学賞を受賞した形です。
30/5/8 秋山清